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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)665号 判決

控訴人

日本共産党青森県委員会こと

日本共産党青森県党組織

右代表者青森県委員長

小浜秀雄

右訴訟代理人弁護士

渡辺義弘

横山慶一

小林亮淳

鷲見賢一郎

被控訴人

対馬テツ子

八木澤真一

右両名訴訟代理人弁護士

高橋耕

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人代表者青森県委員長小浜秀雄の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取り消す。本件を原審に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、以下のとおり、追加、補足するほかは、原判決事実摘示中第二(控訴人当事者能力についての主張)一、二項と同一であるから、これを引用する。

民事訴訟法第四六条の「法人ニ非サル社団」として訴訟法上当事者能力が認められるためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理団体としての主要な点が確定していることを要するとする判例の見地によれば、控訴人は、右の要件を具備した団体であるといえる。このことはもとより当然であるが、仮に当該団体が特定社団の下部組織をなしている場合には、右の要件のほか、当該団体が、その社会的活動面及び財政経済面並びに意思決定面のいずれにおいても、独自性、自主性、自立性をそなえることが必要であるとしても、控訴人は、以下に述べるとおり、この要件をもそなえている。したがって、控訴人は、民事訴訟法上の当事者能力を有するものというべきである。

1(諸活動における独自性、自主性)

党規約第二〇条は「地方的な性質および地方的に決定すべき問題は、その地方の実情におうじて、都道府県機関と地方機関で自主的に処理する。」と規定し、共産党大会や共産党中央委員会の決めた政策、方針のことで、地方的な問題については、それぞれの地方組織が独自に、自主的に決定する権限をもつことを明らかにし、さらに、規約三九条二号は、前記二〇条を受けて、より具体的に都道府県党会議の任務として、「党大会と中央委員会の方針と政策を、その地方に具体化し、都道府県の方針と政策を決定する。」と規定し、もって、地方機関が当該県の方針と政策を定め、これに基づいて、具体的にも県党組織が独自に、自主的に諸活動を行うことを明確にしている。

そして、実際にも、控訴人は、青森県下における政治革新をめざして、県知事選挙、同県内における非核反対運動、基地反対運動、売上税反対運動等の政治的、経済的活動につき、共産党中央委員会とは独自の団体として行動し、また、同県内外の他の団体からの各種会合への参加要請等も共産党と独自の団体として取り扱われている。

2(経済的側面における独自性、自主性)

共産党の都道府県党組織は、都道府県レベルの問題について、経済取引等の経済活動の主体となっている。すなわち、控訴人の資金は、党費、事業収入、寄付などであるところ、党費は、共産党中央委員会が決める一定の配分率で、各級組織に配分されている(党規約五九条、六二条)。また、控訴人は、政治資金規正法に基づく政治団体として、独自の寄付を受けているうえ、独自の事業による収入を得ているし、自らも寄付金を獲得しており、控訴人の支出(専従従業員の給料支払、源泉徴収税、社会保険料等の徴収納付に関して雇用主としての支払、徴収、納付等)もその自主的な予算計画のもとで、これら収益から賄われて、控訴人の政治活動に関する収支も、青森県選挙管理委員会に報告している。また、控訴人は、固有の土地、建物、備品、自動車を購入、保有している(ただし、土地及び建物の登記名義は、購入時の県委員長の名義で、右自動車の登録は、県委員会役員の名義で、それぞれ、なされているが、これは控訴人が権利能力なき社団であることによる。)。

3(組織面における独自性、自主性)

控訴人は、社団としての実体を明白に有している。すなわち、党規約一五条は「党組織は、地域と生産(経営)にもとづいて組織するのが原則である。」と規定し、地方組織は、当該地域に居住し、あるいは、当該地域の職場に勤務する党員を構成員として組織され、住居や職場に党の支部が作られ、党に入る者は原則として、支部に入党申込をし、支部が入党決定をし(なお、審査の適正を担保するため地区委員会の承諾をうる。)、党員は支部に所属し、登録され、その住居、職場が移動する場合には移転先の支部に所属が移ることとされている。そして、県党組織は、当該県内の支部所属党員によって構成され、県党組織は当該支部所属員によって構成されている。控訴人は青森県内の支部所属党員で構成されており、それら党員は社団としての構成員であるといえる。

また、控訴人は、社団としての意思決定機関、代表執行機関を独自に選出している。すなわち、党規約第三九条三号は、都道府県党議会の任務として、「都道府県委員会を選出する。」と規定されているところ、右都道府県委員会は、機関としては、同第四二条で「委員長と常任委員会を選出する。」こととされ、その都道府県委員長が自然人として当該都道府県党組織を代表する者となるとされている。このように党の都道府県委員の選出は、規約上の最高決定機関でなさなければならず、都道府県委員長は、都道府県委員総会において選出されることが規約上必ず必要なのであって、共産党中央委員会がそうした手続を経ずに直接都道府県委員や同委員長を任命することは、規約上できないのであるから、都道府県委員、同委員長の選出は、県党組織が独自に、自主的権限に基づいて行っているといえるのである。

控訴人も、地方組織として、中央組織とは別個に最高決定機関としての青森県会議をもち、組織を代表する青森県委員長、機関としての青森県委員会を自主的に選出して、継続した組織としての実体を有しているといえるのである。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、本件訴えは、控訴人に当事者能力がないことにより、いずれも不適法として却下すべきものと判断するが、その理由は、以下のとおりである(ただし、後記3(四)参照)。

1  法人格なき社団の要件

一般に、ある特定団体が、民事訴訟法四六条にいう「法人ニ非サル社団」、すなわち権利能力なき社団であるといいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこに多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要すると解するのが相当である(最高裁判所昭和三五年(オ)第一〇二九号、同三九年一〇月一五日第一小法廷判決・民集一八巻八号一六七一頁)。そして、この理は、当該特定団体が特定の権利能力なき社団の下部組織と目されるような場合であっても、異なるところはなく、当該団体が前掲要件をそなえ、独自の団体とみられる限り、それ自体権利能力なき社団であると認められる場合のあることは否定できない。しかしながら、この場合においても、当該団体が、他の団体との間におけると同様に、その上部組織と目される団体との間においても、自主、独立の団体として組織され、自主的な決定、総会の運営、財産管理等が行われ、もって、当該団体自体が、上級組織である団体とはなれて別個の権利能力なき社団としての実体を有すると認められることを要することはいうまでもない。

けだし、法人格がなくても、私法上権利義務の主体として取り扱われ、訴訟法上も当事者と認められるものである以上、本件において問題とされている人格権を含め、ある権利または義務が当該団体だけに帰属するものであることが誰の目から見ても明瞭でなければならず、もしそれが不明瞭であるのにそのような取り扱いを許すとすれば、取引の安全をそこない、法的安全を保持しえない結果となるからである。

2  要件具備の検討

そこで、以下この観点から、控訴人に右の要件が具備し、当事者能力を認めるかについて、検討する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  日本共産党の組織、権限、総会の運営等

訴外日本共産党は、民主主義的中央集権制を組織原則とし(党規約前文(三)、一四条)、全国の党組織は、全国組織の最高機関である党大会及び党大会から党大会までの指導機関である中央委員会にしたがわねばならず(一四条五号、一七条一項)、国際的な性質及び全国的な範囲で決定すべき問題は、中央機関で統一的に処理すべきものとされている(二〇条一項)。中央機関の下には、都道府県機関たる都道府県会議と都道府県委員会がさらに、その下に地区党議会と地区委員会が組織されており、道府県組織の決議機関である都道府県会議には党大会と中央委員会の方針と政策をその地方に具体化し、都道府県の方針を決定するなどの権限が与えられ(三九条各号)、また、地方組織の執行機関である都道府県委員会には、中央機関の決定をその地方に具体化し、都道府県党議会の決定を実行し、都道府県の党活動を指導する権限が与えられている(四一条)が、これら下級機関は、「地方的な性質および決定すべき問題は、その地方の実情におうじて、都道府県機関と地区機関で自主的に処理する」ことが許されているものの(二〇条一項)、それら下級組織の決定は上級組織の決定とくいちがってはならないものとされ(同条二項)、特に党の政策問題については、中央組織から下級組織にその決定の実行をもとめられた場合は、下部組織において一応決定の変更を求めることができるにせよ、究極的には、上級機関の決定にしたがいこれを実行しなければならないものとされている(二一条二、三項)。そして中央委員会は、「下級組織を点検、指導するため、中央委員会の代表および組織者を派遣」し(二八条四号)、「中央委員会の必要におうじて、下級組織の委員として選出されたものを移動配置することができる」(二八条六号)、「中央委員会は、その指導をつよめるために、地方に中央委員会の代表機関をおくことができ」(三七条一項)、「中央の方針をその地方にただしく具体化するために、また闘争の統一をはかり、経験を交流するために、数個の都道府県組織によって協議会をひらくことができる」(同条二項)ものとされている。

(二)  綱領・規約

そして、このような中央機関とその下にある地方機関には、これら全体を規律する綱領・規約としては、前掲「日本共産党綱領・規約」がただ一つあるだけであって、いずれの地方機関においても、それ以外に、独自の綱領、規約をもってはいない。そして、党員と党機関が規約、規律を守っているかいないかの点検及び責任の追及、違反者の除名その他の処分については、中央委員会が統制委員会を設け、これを処理することとされている(三三条各号)。

(三)  地方組織の構成、位置、権限等

地方組織としての都道府県会議と都道府県委員会の設置、権限等については、党規約第四章「都道府県組織」に規定されているところ、それら地方組織は、党規約二〇条に基づき、「地方的な性質および地方的に決定すべき問題は、その地方の実情に応じて都道府県機関と地区機関で自主的に処理する」権限を有するものの、下級組織の決定は上級機関の決定とくいちがってはならず(二〇条二項)、党の政策問題については、下級組織は上級機関が決定したのちは、それにしたがい、実行すべきものとされ(二一条二項)、究極的には、最上級機関たる中央組織の決定を無条件で実行すべき義務が課せられていること、その他もろもろの面で、直接、間接に中央組織の指導、統制を受けることは前示のとおりである。

(四)  党の構成員とその変動―入党、党員の地位、離党等

党規約一条は、党員の資格につき、「党の綱領と規約をみとめ、党の一定の組織にくわわって活動し、規定の党費をおさめるものは党員となることができる。」と定め、入党については、一八歳になった日本人で、党員二名の推薦をうけた希望者につき、個別に基礎組織(支部)の審議を経て決定され、かつ、地区委員会の承認を受け(特殊な事情のもとでは、地区以上の指導機関は直接入党を許可することができる。)ることを要するとされている(五条)。また、離党については基礎組織または党の機関に事情を述べその承認をもとめ、右機関は右事情を検討し、会議にかけ、離党を認めるが、この場合、一級上の指導機関に報告するものとされている(一一条)。なお、また、除籍は、組織と本人の協議によって決せられるが、同様一級上の指導機関に報告し、その承認を受けるものとされている(一二条)。さらに、除名または除籍された者の再入党は、中央委員会に限って決定権があるものとされている(一三条)。

(五)  財産の管理運用、資金の確保、支出の実行等

「党の資金は、党費、党の事業収入および党への寄付などによってまかなう」ものとされ(五九条)「党費は実収入一パーセントとする」と定められ(六〇条)、入党費の額は、中央委員会で決定され(六一条)、「党費の納入方法と各級指導機関への配分率は、中央委員会がきめる」(六二条)ものとされ、また、党の財産及び資金の管理は、中央組織である中央委員会にその権限があるとされている(二八条八号)。なお、そうした中央委員会の権限は、党規約に明記されているのに対し、都道府県組織を始めとする党の下級組織の財政上の権限及びその中央組織との関係については、別段の定めが設けられておらず、また、都道府県組織には固有の規約も存在しないことが認められる。したがって、訴外日本共産党において、都道府県を始めとする党の下級組織の財政上の権限及びその中央組織との関係がどのように定められているかについては、前記主要な事項を除いては、党規約上は必ずしも明らかでないが、以下にその実際の運用の態様について検討するように(後に引用する原判決理由四八丁裏四行目から五五丁表七行目までを参照)、結局、地方組織が中央組織の直接、間接の統制をはなれて、独自の財政、経済活動をしているものとは認め難い。

3  要件具備に関する判断

(一) 前記2の認定事実によれば、訴外日本共産党は、ただ一つの綱領、規約に則り、その採択された共産主義の実践、発展といった政治目的のもとに、民主主義的中央集権制の導入により、中央組織とこれにより強力に統制されている下部組織が一体となって、政治活動その他諸活動を行う政治結社として、組織された団体であって、それ自体が一体として前記の要件を具備する権利能力なき社団と認められる。

(二)  ところで、前記事実によれば、本件訴訟における控訴人は、同党の都道府県組織の一に該当する青森県における県組織であって、同党の下部組織であり、その正式の名称は、「日本共産党青森県組織」であること、ただ社会的には、控訴人の執行機関の名称である「日本共産党青森県委員会」の名称をもって呼ばれていることが認められる。

したがって、控訴人は、前記規約に基づく青森県組織として、地方的な問題は、青森県会議の決定に基づき、ある程度自主性、独自性のある決定、活動が許されているものの、前記中央組織による決定にしたがい、その実行を図る義務があり、その他、構成員、権限、諸活動において、前記のとおり中央組織の統制を受けていることは前示のとおりである。そうすると、控訴人は、整然と組織化され、中央集権化され、同一綱領・規約のもとに規律されている訴外日本共産党下級組織の一部でしかなく、それ自体で、前記一に掲げる要件をそなえるとは認め難い。したがって、控訴人には、本件訴えにつき、原告としてはもとより、被告としても当事者能力を有しないものといわざるをえない。

(三) なお、控訴人は、寄付の受取や税金の納入、財産管理等が地方組織単位で行われていることを挙げて控訴人の独自性をいうが、党の財源たる党費の確保、党資金の配分等の財産管理の一切が、中央組織で行われている以上右事実は、前示の判断を左右するに足りない。また、控訴人の財産の管理が青森県中央委員会の委員会名義で行われ、特に不動産の登記簿上の名義、自動車の登録名義が同委員会の委員長名義でされていることをいうが、もともと、権利能力なき社団は、団体の名義では不動産の登記や自動車の登録をすることはできないのであるから、党代表者やその他役員個人の名義を使用するのは当然であって、その名義が県党組織の役員のそれであるからといって直ちに団体の独自性を認めることはできない。さらに、控訴人は、青森県議会議員の選出を独自に行い、同議会で独自の意思決定をなすもののごとく主張するが、この点もすでに検討したとおり、消極に解さざるをえない。そもそも、中央組織の選抜する国会議員にしても、党員であるかぎり、党の決定にしたがい、中央組織の統制のもとにあるべきであろうし、地方組織の選抜する地方自治体の議会の議員は、中央組織の統制のもとにある各地方組織の統制を受けるであろうことは、党規約上の組織原則に基づくかぎり、当然の理である。

(四) その他、控訴人が団体としての前掲要件具備に関する細部にわたる主張については、原判決が判示するとおりであるから、これ(原判決理由三四丁表一〇行目から同四七丁表七行目まで及び同四八丁裏四行目から同五五丁表七行目まで)を引用する。また、控訴人が当審において各県党組織の活動の独自性を証するものとして提出した〈証拠〉は、各県党組織の活動の実態を識るうえで参考とはなるが、権利能力の主体としての独自性を認める資料とすることはできず、また、〈証拠〉にしても、これら自体だけでは、右独自性を認めるに足りない。

二結論

以上の次第であるから、控訴人が原告として訴えを提起した本件第二事件は、民事訴訟法上の当事者能力を有しないものが訴えを提起したものとして、不適法な訴えといわねばならない。

なお、控訴人は、控訴人が被告とされて被控訴人らより訴えを提起され、原判決により第二事件と同じ理由で訴えを却下する旨の判決を受けた本件第一事件についても控訴提起をし、右第二事件とともにこれをも原審に差し戻すことを求め、もって、両事件につき、差戻後の原審において実体的判決を受けることを求めているものと理解されるが、仮にそのような控訴が許容されるとしても、控訴人には、本件第一事件の被告としての当事者能力がないことは前示一に述べたとおりであるから、結局、右訴えも不適法として却下を免れないことが明らかである。

よって、本件第一事件及び第二事件の各訴えをいずれも不適法なものとして却下した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官伊藤瑩子 裁判官近藤壽邦)

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